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ワンだ~ランド

wandaland.exblog.jp

なにげない出来事を薄く薄くのばしていく金箔職人ワンだの世界

1度きりのナースコール

私の生家は医院と母屋が廊下1本で繋がり、
木製の引き戸で仕切られていた。

子供の頃夜に1人で留守番をしている時に、
医院の方には誰もいないはずなのに、その
引き戸の向こうをスリッパで歩き回って
いる音が聞こえた事があった。

ちょうどその頃我が家には、兄と彼の
クラスメートが受験勉強の為に、
現役大学生のお兄さん2人と合宿の様な
事をやっていた。
従業員用の部屋で寝泊りをして勉強して
いたわけだ。

その日彼ら4人は外出していたのだが、
1人でTVを見ていた私はパタパタという
スリッパの音を聞い。

てっきり彼らが医院の玄関から入って
部屋まで戻ったんだろうと思っていたの
だが、実際に彼らが帰宅したのはそれより
ずっと後だった。

それから私がまだ小学生だった頃、夜間に
突然ナース・コールが鳴り始めた。

  ブーーーーーーーーーッ

引き戸の向こう側の医院の2階には、
病室があった。

父は母と一緒に外出している。
だだっ広い家の中には、奥のお座敷にいる
寝たきりの祖父と私だけだ。
お手伝いさんもとっくに帰ってしまった。

どうしよう、入院患者さんが気分でも悪く
なったのかもしれない。

恐る恐る薄暗い廊下を抜け、病室がある
2階へ続く階段を上ったものの、むしょう
に怖くなって途中で引き返し、急いで両親
に電話を掛けた。

「ナースコールが鳴ったから病室まで
行こうと思ったけど、怖かったから戻って
来たよ~。 早く帰って来て!」

すると間を置かず「行かなくていいから!
すぐ帰るからそこに居なさいよ!」と母が
怒ったように言った。

「今入院している人は誰もいないから!」

ええっ?
どういう事?

両親は大慌てで帰宅した。
私に来ないようにと言い渡して、木刀を
持ったへっぴり腰の父を先頭に病室に
向かったが、もちろんそこには誰もおらず、
2人は青い顔をして母屋に戻って来た。

当時のナースコールはボタンをカチッと
押し込むタイプで、右側のボタンを押して
ブザーを鳴らし、切る時は左側に出っ張って
いるボタンを押さなければならない。

私が聞いたコールはたった1度だけ。
TVはつけていたが、どきっとする程不快な
音が響くので、絶対に聞き間違いではない。

ちょっと触れただけではボタンは動かない。
接触不良かとも思ったが、コールが鳴った
のは後にも先にもあれ1度きりだった。

そんな医院も今では取り壊され、別の建物
が建っている。
by wanda_land | 2006-08-20 22:24 | ワンだ日記

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