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ワンだ~ランド

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なにげない出来事を薄く薄くのばしていく金箔職人ワンだの世界

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「えっ?いつまでですかぁ?
 あと1ケ月ぐらいですかぁ? ふふふ。」

調査の入力を終えてそそくさと帰ろうとしていた私に、鬼山が
「ワンださ~ん、7月になったら件数が少なくなるから、
それまでもうちょっと続けてもらっていいですぅ?」と
猫なで声で聞いてきた時の私の答えだ。

いつもなら揉み手をしながら「はいはい、もちろん仰せの
通りに致しますですよ、ご主人様。」とぺこぺこ頭を下げて
いただろうが、この時は違っていた。
鬼山の呪縛が解けかかっていたからだ。

今の職場のスタッフが少なくなり、私も忙しくなってきた。
しかも私には残業手当などは出ないが、鬼山には法外な
手当てが支給されている事をこの時初めて知らされた。
鬼山は尚も私に手伝わせようとしている。
ばかばかしい話ではないか。

約50件の調査にいったいどれだけの体力と気力と時間を
費やした事か。
おまけに差し入れまでしてゴマをすっていたとは。
これではお人好しを通り越してただの阿呆ではないか。

鬼山・鬼林がいかにもただ働き同然で頑張っていると見せかけて、
実は高額の報酬を受取っていたと聞いて、さすがに唖然とした。
思わず上司に「ええっ?そんなに貰ってるんですか?
それじゃ鬼山さんには倒れるまで働いてもらいましょうか。」
とまで言ってしまった。

新人事務員の猫玉さんが鬼山の代わりに調査に関する
連絡をしたり、調査日の送迎をしてくれていていた。
短時間のドライブであるが色々な話題で盛り上がり、とても
楽しいひと時ではあった。
だがそろそろ潮時だ。
by wanda_land | 2005-09-30 22:52 | ワンだ日記
こうして私の血管がぶち切れる前に、意外にも普段は温和な
犬山さんの血管がぶち切れてしまったわけだが、
次に続く彼女の言葉に、めらめらと燃え盛るはずだった
怒りの炎が線香花火レベルに落ちてしまった。

「私、鬼山さんにいつか言おうと思ってるんですよ。
『あの時私に何て言ったか覚えてますか?
謝って下さい』って。」

犬山さんの断固たる決意表明に思わず「ひいぃっ。。」と
小さく叫びそうになった。
あの鬼山に事もあろうに詫びを入れさせようとしているのだ。

事実関係をはっきりさせるのはいいが、それを根に持った
鬼山が犬山さんに辛く当たらないとも限らない。
私はやんわりと止めようとした。
今は感情的になって鬼山に体当たりする気満々でも、
段々冷静になってくれば気持ちが変わるかもしれない。

しかし彼女に二言はなかった。
後日鬼山と2人で車に乗っていた時に本人に問い質したのだ。

「鬼山さん、あの時私に言われた事覚えてますか?」
「え?」
「『頭おかしくない? 大丈夫?』って言いましたよね?」

最初鬼山は忘れた振りをしてとぼけていたものの、最後は
諦めて「すいませんでした。。。」とぼそりと謝ったと言う。
そしてその時の事を「犬山さんが(私を)あんな目で
見るなんて思わなかった。」と振り返っていたらしい。

犬山さんは淡々と話していた様だが、鬼山は「睨まれた」と
感じた様だ。
普段は穏やかな人が本気で怒るとコワイのだぞという教訓が、
これで身に染みていればいいのだが。
by wanda_land | 2005-09-29 21:06 | 黒の時代
弱い者いじめは子供の頃から嫌いだ。
弱くなくても、事情があって反論できないと分かっている人を
攻撃する人間も許せん。

犬山さんからその時の詳しい話を聞いた時に、心のずっと
奥底で眠っていた何かが目覚め始めていた。
犬山さんがあれほど激怒するのを見たのは初めてだった。

「鬼山さんって看護師さんですよね!
だいたい看護師さんのくせに言い方とかひどいんですよ!
それに手を抜いても大丈夫と思ったら、その人から用事で
呼ばれても待たせたりするくせに、相手がちょっとうるさい
人だとすぐに話を聞きに行ったりして、態度が全然
違うんですよ!
人によってあんなに態度をころころ変えていいんですか?
看護師としての資格なんてないですよ!」

よっぽど今まで我慢していたのだろう、堰を切った様に
喋り始めた。
犬山さんの堪忍袋の尾が切れる音が事務所中に響き渡り
そうな勢いだった。

「ワンださんにはあんなにひどく言ってたくせに、自分は
FAXも取りに行かなくなったんですよ!
『早く取りに行って!』とか、なんかきつ言い方して!
別に普通に言えばいいのに!あのくそばばーーーー!!
もうあっっっったまに来た!隣の席に座るのもイヤ!
刺し殺してやるーーーー!!!』

まさに怒髪天を突く勢いだ。
しかし驚いたのは彼女の怒りっぷりだけではなく、その後に
続く彼女の予想外の言葉だった。
by wanda_land | 2005-09-28 21:07 | ワンだ日記
犬山さんは10年、いや数10年に1人出るか出ないかと
言えるほどの逸材だと思っているし、彼女の仕事振りを
知っている他の人達も手放しで誉めている。

理解が早く仕事熱心で、手が空くと他にする事はないかと
自主的に動き、とても気が利いているのにそれが全く嫌味に
感じられない。
私がこっそり捜し物をしていると、すぐに気づいて必ず
「何か捜し物ですか?私が捜しましょうか?」とさり気なく
聞いて来る。

そして事あるごとに「ワンださん、大丈夫ですか?」と
心配そうに聞いてくれた優しいコだ。
ある時仕事上でショックを受け、耐え切れずに非常階段で
めそめそしていると、犬森さんが血相変えてやって来た。

「ああワンださん、ここだったんですね?大丈夫ですか?」

私が階段にへたり込んでいるのを見て、ほっとした様な
表情を浮かべたところを見ると、混乱した私が発作的に
妙な真似をするんじゃないかと焦って捜しに来てくれたの
だろう。

ぎすぎすした事務所の雰囲気を和らげ、私をフォローして
くれていた優しい犬山さん。
彼女の存在はまさにオアシスだった。

鬼山はそんな犬山さんに対して暴言を吐くという決定的な
間違いを犯してしまったのだ。
私自身は言われっ放しでぼこぼこにされるがままだったし、
抵抗する気も起きなかったが、大切な人に矛先が向くと
なると話は全く別だ。
by wanda_land | 2005-09-27 21:18 | ワンだ日記
私は時々元の職場にお菓子の差し入れをしていた。
アイスやプリン、和菓子にチョコ。。。

仲の良かった犬山さんや新人の猫嶋さんに食べてもらいたい
というのも理由の1つだったが、鬼山・鬼林にゴマをすって
なんとか居心地を良くしようという、我ながらちょっと情けない
作戦だった。
(もちろんこの2人からお礼を言われたためしは1度足りとも
ないが。)

認定調査の結果を入力して送信するには嫌でもあの2人が
いる職場に足を運ばなくてはならず、私にはこれが
苦痛この上なかった。
そこで起きた事はまだ過去になっていなかったからだ。

またあの頃の様に息苦しくなり、気分が悪くなってくる。
入力する文章が多い時などは焦りと緊張で指が震え出し、
余計にミスタッチをしていたものだ。

鬼山・鬼林の失言で1度は絶対に手を出さないと決心していた
この調査、そんなこんなでしばらくの間せっせと手伝っていたが、
またもや鬼山自身が墓穴を掘ってくれた為、今度は上司を
通じ晴れて正式に断る事となった。

ある日「鬼山さんが犬山さんに結構ひどい事を言った
みたいだもんね~。
ワンださん、犬山さんのフォローをしてくれんかな?」
と上司からお願いされたのがきっかけだった。

頼んでもいない書類の入力を犬山さんに「頼んだ。」と
言い張り、やんわり否定する犬山さんと水掛け論になった
挙句「犬山さん、頭おかしくない? 大丈夫?」と暴言を吐いて
しまったのだ。
by wanda_land | 2005-09-26 20:55 | ワンだ日記
なんだ、偉そうな事ばかり言っていたが、担当件数が
増えた途端に早速手を抜き始めているじゃないか。

事務を1人増やした為、今までケアマネジャーも一緒に
やっていた請求業務から解放されているらしく、
これだけでもかなり楽になっているはずなのに。

私の担当だった猫園さんの家族の困り果てた顔を見て
一抹の不安を感じたものの、部外者の私が口出しするわけ
にもいかない。
当たり障りのない程度に話をして、この1件は犬森さんと
私の胸にしまう事にした。

本人や家族、主治医、そして鬼山・鬼林の思惑まで考え、
何が最善なのか分からず決断できない場面がしばしば
あったが、鬼林からその事で一喝された時があった。

「さっき私がなんでワンださんを怒ったか分かりますっ?
ワンださんは周りの人から何か言われると、すぐに
ふらふらと意見を変えるんですよっ。
いったいワンださんはどうしたいんですかねっ。」

ヘビの様な小さな目で睨みつけながらねちねちとお説教を
されると、ますます気分が悪くなりめまいがしてくる。
言う事がころころ変わる鬼林に話を合わせるとそんな風に
なるんだ、とは恐ろしくて言えるはずも無かった。

ところがこの「首尾一貫している」らしい鬼林に不満を
爆発させた家族が、私に泣きついて来た事があった。
主治医への報告書も怠っているらしく、鬼林に担当が
変わってから「状態がさっぱり分からない。」と先生が
こぼしているらしい事も耳に入ってくる。
手を抜いているのは鬼林も同じだった。
by wanda_land | 2005-09-25 23:18 | ワンだ日記
「あまり情報は入ってこない。」らしい犬森さんの耳にたまたま
入ったのは鬼山の最近の言動だった。
日頃厳しい事を言っていた彼女の事だ、私よりも遥かに
きちんと仕事をこなしているはずであった。

ところが犬森さんの話によるとそうでもないらしい。
鬼山は猫園さんの家族に「夜は電話を掛けないでくれ。」とか
「うちでは対応できないから、今後はよその施設の
ショートステイを利用して欲しい。」などと無責任な事を
言ったらしいのだ。

猫園さんは以前私が担当していた。
犬森さんも異動前は猫園さんの在宅介護サービスに関わって
いた為、心配すると同時に鬼山に対し不信感を顕わに
していた。

ところがその信じられない話を聞いた直後、滅多に足を
運ばないスーパーで猫園さんの家族にばったり会って
しまった。

「あらー、ワンださーん!」
猫園さんは私をひと目見るなり懐かしそうに近寄って来た。
そこでひとしきり話を聞く事になったが、犬森さんの情報は
全部本当だった。

「犬森さんは『いつでも電話されていいですよ~。』と言って
下さってたし、ワンださんも義母の事を心配してよくお話をしに
家に来られてたでしょう?
でも今はね~。。。
時間外は電話をしないで下さいって鬼山さんから言われてるし、
ショートステイは受けられないって断られたんですよ。」

そして慌てて「鬼山さんもいい人なんですけどね。」と取って
付けた様に前置きして、「ショートステイの時は他の施設を
紹介してもいいですよ、とは言ってもらってるんですけど、
でも。。。」とすっかり困り果てた様子だった。
by wanda_land | 2005-09-24 21:43 | ワンだ日記
とにかく仕事が楽しくて仕方が無かった。
張り切り過ぎて持病の腰痛がますます悪くなり、痛くて
寝返りができない程だった。

私の過去を知っている施設長の犬森さんも、
「ワンださん、ほんとに楽しそうに仕事してますよね~。」と
声を掛けてくる。
ここには少なくとも鬼山・鬼林の様な危険人物はいない。

そんな私の様子を副主任の猫道さんが鬼林に伝えたらしい。

「『ワンださんは楽しそうに仕事をしてますよ。』って言ったら
鬼林さんが『悔しいっ!』って言ってましたよ。ほっほっほっほ。」

事情を知らない猫道さんはのん気に笑っていたが、
それを聞いた私の方は心底げんなりしてしまった。
自分が嫌いな人の幸せを妬む連中はいるが、あからさまに
それを口に出してしまうのがいかにも彼女らしい。

平和な毎日だったが時たま鬼山・鬼林から電話が
掛かって来る事があり、まだこの2人を恐れていた私は、
その度にうろたえてしどろもどろになっていたものだ。
鬼山の声も耳障りだが、特に鬼林は「いびってやる」という
気持ちが言葉に滲み出ているので、特にびびってしまうのだ。

そんなある日私が以前担当していた猫園さんの家族と
スーパーで偶然出くわした。
今担当しているのは鬼山だ。
私は施設長の犬森さんからの内緒の話を思い出し、
どぎまぎしてしまった。。。
by wanda_land | 2005-09-23 23:29 | ワンだ日記
新しい職場に新しい同僚。
何もかもとびきり新鮮だった。
視界がぱーっと拡がり、風景の色が数段鮮やかに見える。

事務兼ヘルパーは1人いるが、専任の事務職は私だけ
だった為、何をどこまですればいいのか最初は
戸惑う事も多々あった。
しかしそれがストレスに変わる前に、少しずつではあるが
自分なりのペースを掴んでいった。

窮屈であまり好きではなかったタイトスカートとジャケットを
脱ぎ、今ではゆったりしたパンツとTシャツを制服代わりに
愛用している。
気分も動きも楽チンこの上ない。

何より1番嬉しかったのは、ここには私を故意に
傷付けようとする人間が誰もいない事だ。

それどころか食事の準備や後片付け、トイレ掃除など
ごく当たり前の事をしているのに、同僚から
「ワンださん、ありがとうございます。」と声がかかるのだ。
「ありがとう」と言われる事がこんなに嬉しいとは思わなかった。

問題が発生しても、ケアマネジャーの時の様に1人で悶々と
する事も無く、鬼山・鬼林からやいのやいのとせっつかれて
うろたえる必要も無い。
これでやっと両肩から重い荷物を下ろす事ができた。

介護職のスタッフと一緒に悩んだり、時には超多忙な
施設長の愚痴の聞き役となったりと、言わば陰でひっそりと
支える立場となった。
    
by wanda_land | 2005-09-22 21:12 | 黒の時代
その日私はまだ明るいうちに帰宅した。
残業する事も無く、こんなに晴れ晴れとした気分で職場を
後にするのは何年振りだろうか。

私は2階の自室に行き、窓が全部閉まっているのを
確認した後、「よーーーーーーしゃーーーっ!!」と叫んだ。
そして「勝ったぞーーーーーっ!!」と。

無論鬼山・鬼林とは戦っていない。
非暴力・無抵抗主義を押し通し、息をひそめる様にして
毎日を送っていたのだから。
しかしそれでもなおかつ「勝った」という言葉が思わず口を
突いて出てしまった。

ともすれば挫けそうになり、考えてはいけない事を
考えそうになった自分に打ち克った、という気持ちも
あったのだろう。

あの頃は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」という短編を時々
思い出したものだ。
「極楽」とは「新しい職場」、そしてか細い蜘蛛の糸に
すがりつく「カンダタ」は「私」そのものの様な気がした。
血の池地獄から這い出そうと足下でうごめいている
罪人どもは、もちろん鬼山と鬼林だ。

蜘蛛の糸はいつぷっつりと切れるとも限らない。
私自身の忍耐力や気力が無くなってしまった時に糸は
切れてしまう。
だめだと諦めた瞬間奈落の底にまっ逆さまに落ちて行った
だろう。
私の弱り果てた精神力で命を繋いでいくのは簡単では
なかった。

しかし私に救いの手を差し伸べてくれる目に見えない存在や
仲間がいたからこそ、最後まで踏ん張れたのは言うまでも
ない。
by wanda_land | 2005-09-21 22:05 | ワンだ日記